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猫アニメ

猫の問題行動に関する相談事例


No.102:脱走後にあちこちに粗相(尿)するようになった猫


★★相談内容★★

初めて相談をさせて頂きます。きじ白の♂2歳半(推定)約6Kg。2017年末頃に公園の野良猫で保護され、去勢を受け2018年4月に私が里親になり、迎えました。以後単頭で完全室内飼いです。粗相について困っております。

始まりは今年7月初め脱走をした後でした。其時、8時間後に自分で家に戻って来ました。 家に入ってすぐ、娘のベットの上で大小を排泄しました。それは恐らく戸外で長く居た為排泄を我慢していたのと、帰宅したてで興奮し、トイレの場所が分からずその場でしてしまったのだと思います。

しかしそれから他の家族の布団、ソファ、自分の居場所畳、フローリング 洗濯物の上にその間隔は空いたり詰んだりですが7月初めから今日11月20日の期間で15回ほど尿だけの粗相がありました。粗相時の尿の量はまるでトイレでするように 普通の量です。

その間尿検査をしましたが異常は見つかりませんでした。獣医師は粗相した部屋には、入れないようにと言われました。そうなると1階では台所以外猫が入れる部屋はなくなります。

また保護主の方に相談をしましたら1匹飼いで退屈し、刺激がないからではないかと言われ2匹目として 子猫をトライアルしましたがその期間にも粗相がありました。結果子猫はお返し致しました。

一方、トイレでも無論排泄はしています。尿は2,3回/日大便1回/日と規則正しいです。食欲も普通体重の増減もさほどありません。

性格は怖がりで警戒心はかなり強いです。しかし夜は私の布団に入って来ます。粗相されないかとヒヤヒヤですが寒くなり可哀そうで無碍にも出来ません。

昨夜はトイレを済ませてから私の布団に入るように猫に言いましたらそれから本当にトイレに行きましたので驚きました。偶然とは思いますが・・・

原因と対策など教えていただけると有難いです。よろしくお願いいたします。



★★助言内容★★

今回の猫さんの不適切排尿行動についての原因と対策をとのことですが、それは行動診療における診断治療のプロセスそのものですので、実際に診療していない無料相談ではその情報量からしてそこまでの提言はできません。したがってそれを望まれる場合は、別途正式に受診していただく必要があります。なお、以下に無料相談でできる範囲の提言をさせていただきましたので参考になさってください。

猫における不適切排尿行動の原因を明らかにするためには、まずはそれがスプレー行動のような尿による匂いづけすなわちマーキングを目的とした行動なのか、それとも普通に排尿を目的としながらも何らかの理由で用意されたトイレを使いたくないがための行動なのかを鑑別する必要があります。

そのそれぞれの特徴としては、普通の排尿は腰を落とした姿勢で水平面に一回に多量の尿を排泄しますが、尿マーキングでは立ったままの姿勢で壁や家具などの垂直面に少量の尿をかけるスプレー行動が一般的です。ただし中には床や家具などの水平面にマーキングしたり本来のトイレの砂の上にスプレーしたりすることもありますので、尿がかけられていた場所だけを以って両者を区別することはできません。

今回の猫さんのケースでも排尿は専ら布団や洗濯物の上だったり、ソファーやフローリングや畳といった水平面ばかりで尿量も多いなど、一見すると尿マーキングではない不適切な排尿行動の可能性が高いように思えますが、ただ猫さんが本来のトイレも使って普通に排尿もしているという点を考えると疑問が残ります。

その理由として、トイレ以外の場所で排尿するようになった猫がある時はトイレでも普通に排尿するといった、あたかもケースバイケースのような行動は考えにくいからです。そうではなく猫さんが普通の排尿は従来どおりトイレで済ませ、トイレ以外の場所でマーキングをしているのであればごく一般的なよくあるケースであり、実際にはそちらの可能性が高いと思います。

それから、今回猫さんがトイレ以外の場所で排尿するようになったのは屋外へ脱走して帰ってきてからということですので、とりあえずはそこに何か原因があるのではないかと疑ってみるのはいいでしょう。猫さんの生活環境などは一切わかりませんが、例えば家の周辺に野良猫がいるような環境であった場合、脱走中の猫さんがそのような猫達と直接遭遇したりマーキングされた匂いを嗅ぐことは十分考えられます。

そうであれば自分の縄張りに接する場所でいきなりそのような強い刺激に晒されることになった訳で、それによって猫さんの縄張り意識が否が応でも高まってしまい、その結果社会的な葛藤なども生じてくる中精神的安定をもたらすためにマーキング行動が頻発するようになったとしても不思議ではありません。

もっとも、縄張り意識の高まりではなく情緒的混乱が背景にあるようなケースではマーキングではない不適切な排尿も誘発されることがあり、その場合は飼い主さんが関わってくる分離不安や日常生活におけるほかの原因の関与なども疑われるため、相談内容の情報だけではそのどちらとも言えないというのが正直なところです。

なお今回のケースがマーキングであった場合は、それは猫にとってみれば生得的に備わっている正常な行動であるため完全に封じ込めるのは難しいでしょう。ただし殊更に縄張り意識が高まらないように配慮したり、情緒的混乱が背景にある場合は生活環境を整えたり向精神薬を用いたりすることで、その頻度を少なくさせるなど状況を改善することは可能です。

それに対しマーキングではない不適切な排尿であった場合は、なぜ猫さんが本来のトイレで排尿するのを避けるのか、その原因を探るにはトイレ自体の問題、環境の問題、猫さん自身の問題などに細かく分けて考える多面的アプローチが必要ですが、そうやって原因を見つけ出すことができれば行動治療は比較的容易で行動の修正には期待が持てます。