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猫アニメ

猫の問題行動に関する相談事例


No.103:新しいスリッパを威嚇後飼い主も威嚇するようになった猫


★★相談内容★★

スコティッシュフォールド(雄の一歳半、去勢済)。凶暴化するようになりました。私と妻二人暮らしです。きっかけは妻が冬用の起毛したスリッパを買ってきてからです。

買ってきたばかりのスリッパに威嚇し始めたので直ぐにスリッパを隠しました。今まで聞いたことのない叫び声と、ウーッと唸り声をあげたのでびっくりしました。気を落ち着かせるために猫のお気に入りの場所に連れていきました。我が家には大きなロフトがあり、梯子を掛けると猫が喜んでいつも登って行くのです。ロフトではゴロゴロ喉を鳴らして寝そべっていました。

以前猫がロフトから降りる際に梯子から滑って落ちた事があり、心配する妻が抱っこして降ろしてくれと言うので、暫くして私が連れて行こうとすると先程のように叫び声をあげて私に飛びかかろうとしたので驚いた私は咄嗟にそばにあった塩ビパイプを持ち床に叩きつけて脅し怒鳴り声をあげました。威嚇していたので抱きかかえる事が出来ず、仕方なく自力で降りて来るのを待っていました。いつも夜は私達夫婦の間に寝る猫ですが、その日は寝室に入れずに扉を閉めて寝ました。外では暫くカリカリ扉を引っ掻いて中に入れてくれとニァニァ鳴いていました。

次の日、妻が出掛けて留守にしている家に私が仕事から戻ると、玄関に猫が迎えに来ていて、スリスリ甘えて来たのでおやつを与えました。暫くして買い物に出掛け小一時間程で戻ると、玄関に猫がまた迎えに来ていました。私に纏わりつきながら廊下からリビングに入るなり、突然また例の凄い叫び声をあげて、威嚇しました。なだめようとまたおやつを与えましたが、ウーッと唸り声をあげながら食べていました。猫を落ち着かせようと近くに寄ると更に叫び声をあげて興奮し脱糞しました。妻が帰ると落着きましたが、それから私を監視するようにじっと目で追い、後をつけ始めました。

数日後、妻が風呂に入っている間に私が台所で雑用をしていると側までやって来て横になりました。寛いでいる様子ではなく、私を監視するようにじっと見つめていました。嫌な予感がしていましたが、私がそっと猫の横を通り過ぎるとまたギャーと叫び声をあげて威嚇しました。私は猫に触れもせず、離れていました。妻が風呂から出るとまた何事もなかったようにしていました。

どうやら私と二人きりの時に凶暴化するような感じがしました。妻には何もしません。今は少し落着きましたが、猫が横になって下敷きになってしまった物(携帯電話等)を取ろうとするときに威嚇したりします(その時は側に妻が居たりしました)。何か良いアドバイスがありましたら宜しくお願い致します。



★★助言内容★★

猫さんに最初に見られた新しく購入したスリッパへの威嚇については、目の前にいきなり出現した何か得体の知れないものに突然驚かされたことで、それが刺激となって生じた怒りや恐怖などによる情動反応だろうと思われます。なおこのような反応は、多少の程度の差はあったにしても猫ではごく普通に見られる正常な行動反応と言えます。

ただしその際、猫が威嚇したり攻撃しようとしていたものが目の前からなくなったりすると、今度は唐突に側に居合わせた飼い主などにその矛先が向けられてしまうことがあります。そのような、あたかも本来の攻撃対象にアタックできないがための腹いせや八つ当たりのように見える行動を転嫁性攻撃行動と言いますが、実際は一次的な刺激に対する攻撃的な興奮状態が続いている間に別の刺激が与えられると、そちらに当初の攻撃が転嫁されてしまうことで起こる行動です。

もっとも、あなたに対する猫さんの最初の攻撃は興奮してスリッパを威嚇し始めたその場では起きてはおらず、その後別の場所に移動したりする際にもこれと言って威嚇や攻撃はされていません。しかも攻撃される直前の猫さんの様子はリラックスしていてスリッパ事件の興奮を引きずっているようにも見えません。そのことから考えると猫さんのあなたへの最初の攻撃は、スリッパへの威嚇をきっかけとしてその後に誘発された転嫁性攻撃行動である可能性は低いように思えます。

更にその後の威嚇や攻撃についても同様で、しかもあなたと奥さんが一緒にいる時でもあなただけが攻撃されることには明らかに意図的なものが感じられ、それは無作為に相手を攻撃するという転嫁性攻撃行動の特徴からすると極めて不自然です。それよりも相談内容にある日常の猫さんの様子から勘案すると、どうもいずれの場合も猫さんがあなたをコントロールしようとして威嚇といった行動により攻勢を仕掛けてきているような気がします。

そのような行動は、社会的成熟期を迎えて自己主張が強まってきた猫が自らの優位性を示そうとする時などによく見られますが、その背景となっているのは多くは集団内での猫同士の優劣や地位をめぐっての駆け引きです。ところが時としてそれが飼い主に向けられることがあるため、まさかそんなこととは知らずに対応を誤ってしまった結果深刻な事態を招いてしまうことは少なくありません。

今回のケースでも、ロフトで飛びかかられた際にあなたが物を投げたり怒鳴ったりしてしまったことで、猫さんがそれを挑発行為とみなして自分に挑戦してきたと思ってしまった可能性が高く、そうだとすればそれをきっかけに猫さんが負けじと威嚇攻勢を強め始めてしまったことで、事あるごとにそれが起きるようになったとしても不思議ではありません。

そのような猫に対しては、様々な場面でその状況を支配しようとしたがる相手のペースには乗らず、何かを主張してきたり要求してきても無視して関わらないようにするとともに、常にこちらが主導権を持つようにすることで逆に相手がそれに従って行動せざるを得なくなるように上手く仕向けることが必要になります。

なお、そのような行動修正の具体的方法など詳細につきましては、今回のケースに関して診断が確定している訳ではありませんので言及できません。それをご所望であれば改めて受診をご検討ください。