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猫アニメ

猫の問題行動に関する相談事例


No.32:転嫁性攻撃行動と自己主張性攻撃行動が混在?


★★相談内容★★

こんにちは。家には飼い始めて11年目になるメスの猫〇〇がいます。普段は撫でてと鳴いて主張したり、ご飯を食べる時も撫でてと主張するような、甘えん坊でもあり、すぐに噛もうとする少し気性の荒い子です。私が一人暮らししていた学生の頃に飼い始め、実家に3年目に戻った時に元々実家で飼っていたメスの猫(穏やか)と一緒に暮らすことになりました。2匹はあまり相性のいい方ではありませんでしたが、年が離れていることもあり大きなケンカをすることはありませんでした。

実家で暮らし始めて3年目から、急に母に対して威嚇、攻撃する様になりましたが、その時は私に対しては攻撃せず、撫でて落ち着かせてほかの部屋へ誘導したりしていました。

しかし次の年に東日本大震災が起こり、その時実家の猫は落ち着いていましたが、〇〇はかなりパニックになり、机の下に抱っこして一緒に避難しようとしていた私の事をひっかき、威嚇していました。その数ヶ月後の朝に、私の布団の上で実家の猫と大喧嘩をしていたところに、割って入った私の手に噛みつき、7針縫う怪我を負いました。その時は私の部屋に閉じ込め、近づけないので、ご飯と水をあげる以外はあまり部屋に行かないようにしていたら、1週間程で落ち着き、いつも通りに落ち着きました。正直、とても怖かったです。姉が出産で実家に戻って来ることもあり、〇〇を連れて実家を出ました。

それ以来、5年間の間に1〜2年の不定期で、上記のものも含めて4回、攻撃的になりました。2回目は新しい鏡を買った時に、その鏡に一瞬写った自分を見て他の猫だと思ったのか、私の方に叫び声をあげながら飛びかかって来ましたが、ペットボトルの入ったゴミ袋で防いで、リビングに閉じ込めました。3回目は実家でご飯を食べた後に帰宅したら実家猫のにおいが鞄にかなり付いていたのか、鞄のにおいを嗅いだ後威嚇してきたので、落ち着かせようと布団で一緒に寝ようと誘ったら唇を引っかかれ、医療用テープをしばらく貼らなくてはいけない程ぱっくり切れました。4回目は、クローゼットに入り込んでいた時に毛玉クリーナーに爪がひっかかり、取れなくなったのを危ないと思い、体を押して手を掴んで取ったら威嚇されたので、すぐにリビングに閉じ込めました。

アパートに引っ越してからは、攻撃的になった時はいつも実家に避難し、ご飯と水を変えたりトイレ掃除に行く時以外は家の中を自由に動けるようにしてあり、大体1週間経つと、寂しいのか元に戻ります。

1、2回目の時に動物病院に相談して薬も処方して貰いましたが、善処した感じはあまりありませんでした。子どもの時拾って以来飼っているので、とてもかわいいですが、少し大きな声で鳴いたり、不満気な声で鳴いたりされた時に怖くも感じてしまいます。

現在4回目の期間の最中で、どうしたら良いのかとても困っており、ご相談させて頂きました。長文申し訳ありません。



★★助言内容★★

今回問題となっているあなたへの攻撃行動のうち、地震で避難しようとして抱き上げた時、同居猫との喧嘩に割って入った時、鏡に映った自分の姿をほかの猫だと勘違いした時、鞄についたほかの猫の匂いを嗅いだ時の4つのケースについては、いずれも猫さんの気分が著しく高揚し興奮状態に陥っている最中に、たまたま側に居合わせたあなたに対してその怒りの矛先が向けられてしまったという転嫁性の攻撃行動、所謂八つ当たり行動の可能性が高いと思われます。

しかし、これまで見られたそのほかの威嚇や攻撃については、状況から見るかぎり上の4つとは明らかにタイプの異なる攻撃行動であることが示唆されます。例えば、普段から何かにつけ甘咬みや甘え鳴きが目立つ猫の場合、一見幼児性の強い甘えん坊な性格と勘違いしやすいのですが、その多くが相手や状況を自分の思いどおりにコントロールしようとする支配傾向の表れであり、そういった支配欲が殊更強い個体では要求が通らなかったり自分の意に反したことをされた途端、その憤りを相手にぶつける自己主張性の攻撃行動を示すことがあります。

またそのような猫の場合、ほかの猫と比べると転嫁性の攻撃行動のスイッチが入りやすくなっていることもあり、今回のケースではほかに恐怖反応としての攻撃行動などの兆候も見当たらないことから考えると、先に述べたようなことがこれまでの一連の問題行動の背景にある可能性がかなり濃厚です。実際に今回の猫さんの場合、気性の荒さに加えて普段から体を撫でてくれといった要求など自分に関心を向けさせようとする行動が日常化していることからもその疑いは深まります。

なお、そのような問題行動の場合は精神障害のような脳の機能異常からくる問題行動とは異なり、飼主にとっては不都合かつ異常であっても猫にとっては本来正常な行動であり薬で治すことはできません。そのため治療は行動修正を目的とした行動療法が中心となりますが、それがなされないままに誤った対応を続けていると事態は改善されないばかりか一層悪化します。とりわけ自己主張性攻撃行動の場合は、普段から飼主さんの行動がご本人が気づかないままそれを強化してしまっていることが多々ありますので、できるだけ早く専門医を受診されるようお勧めします。



★★相談内容★★

お忙しい中、ご丁寧な対応ありがとうございます。治療は行動修正を目的とした行動療法中心となるとありましたが、気性の荒い猫でも少しずつ改善されるものなのでしょうか。家族と話し合いましたが、私の手には負えないんじゃないか、攻撃的になってる時は自分の部屋のリビングにも入れないし、仕事にも支障が出るし、何より結婚して子どもを産む時は大丈夫なのか、将来の事を考えると不安で仕方がありません。無責任ですが、飼えなくなってしまった猫を有料で引き取って育ててくれる施設に預けようという話も出ています。

またいつ攻撃的になるか分からないという不安から、少しでも大きな声で鳴かれたり、携帯を家の中でも手放せなかったりどこか脅えながら生活することに正直疲れてしまっています。それでもやはり踏ん切りがなかなかつかないという状況です。行動療法を行っても変わらなかったら、もう猫を施設に預けようと思っています。なので、猫によっても変わると思いますが、行動療法を行って改善される可能性はどのくらいなのでしょうか。



★★助言内容★★

精神障害のような脳の機能異常や構造異常に起因する問題行動でない限り、行動療法には相応の効果があります。というかそれがこのような事態を改善する唯一の方法です。さらにそれに適切な薬物療法を補助的に用いれば、激しい攻撃行動などの一時回避を含め行動修正はより迅速に進行します。

ただし、行動修正とは飼主の方にとって望ましくない行動を学習してしまった猫に対し、それに上書きしてリセットするための望ましい行動を再学習させるプロセスであり、飼主の方が日常的な猫への対応を指示通りに適切かつ地道にコントロールして行くことでそれは達成されます。

その際に飼主の方に求められるのは、学習能力もまちまちで時として思惑通りには事がスムースに進まないこともある猫を相手に、向こうのペースで臨むことのできる根気とそれを支える熱意と愛情であり、行動治療の成否はひとえにそれにかかっています。

それから、こういった猫を有料で引き取って育ててくれる施設云々という件。いらぬお節介かもしれませんが、こちらの切羽詰まった状況に付け入って何年か分の法外な養育費を要求し、引き取った後はそのまま毛皮取扱い業者や実験動物斡旋業者などに売り飛ばすような、お為ごかしの悪辣な輩がいることも知っておいてください。

飼猫の生活に自らの選択肢はありません。その生殺与奪はすべて飼主の方の手に握られています。それゆえに深慮の上にさらに深慮熟考をされますように。