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猫アニメ

猫の問題行動に関する相談事例


No.60:皮膚炎治癒後に背中の毛をむしり始めた。


★★相談内容★★

はじめまして。ネコの過剰グルーミング?についての相談です。どうぞよろしくお願いいたします。保護猫(震災1年後の福島飯舘村より)推定11歳、不妊雌、完全室内飼育、他頭飼育(当該猫含め5匹)、既往歴:FIV陽性、甲状腺機能低下症のためチラージン内服中、特発性膀胱炎:複数回。

憶病で神経質な猫です。同居猫との関係はおおむね良好に見えますが(くっついて寝たり、お互いに毛づくろいをしている)、若い猫にちょっかいを出されて嫌がっていることもあります。非常に甘えん坊で、常に膝の上に乗りたがり撫でるよういつまでも要求してくるような性格です。一方で、遊び好きで運動量が多い一面もあります。

3年前くらいに、好酸球性局面の舐め壊しのためカラーを長期着用後、カラーを外した時以来、背部の毛をむしるようになりました。急に背中が波打つような動きをし、発作的に毛をむしってしまいます。好酸球性局面はカラーを外す前に完治し、それ以来出現しておりません。毛むしりに対してステロイド、アポキル、ジルケーンは効果なく、FIV陽性のためシクロスポリンは使用しておりません。

現在は、ストレス緩和のため、できるだけ遊んであげること、キャットタワーやトンネル等の室内環境整備、フェリウェイ、トイレの数や清潔さの管理等を行っているのですが、おさまりません。来月より私の仕事(医師)が忙しくなる予定で、帰宅が遅くなり相手をできる時間が減ってしまうので、悪化するのではないかと大変心配しております。

原因について、身体疾患除外が必要と考えられますが、・甲状腺ホルモンの補充量は、定期的な血液検査の結果より、過剰ではないと思われます。・座っているときに左右に揺れるような症状も以前よりあり、神経系の疾患も疑われますが、極度に緊張するため神経学的な身体検査は困難と思われます。・その他の身体疾患の可能性として、定期的な血液検査は行っておりますが、性格上画像検査は健康診断としては行っておりませ ん。約1年間被爆していたため心配なところではあります。・アレルギー検査は行っておりません。かなりフードの選り好みをするため、除去食は難しいと思われます。

【お伺いしたいこと】・身体疾患の除外は十分ではないですが、性格上検査自体が非常にストレスになるかと思います。現状で心因性や神経過敏と仮定してそちらの治療を試みるのは妥当でしょうか。・他に現時点で行うべきことはありますでしょうか。以上、お手数をおかけいたしますが、ご返答をいただけましたら幸いです。どうぞよろしくお願い申し上げます。



★★助言内容★★

今回のような毛を噛んで引き抜いてしまう行動は、過度のグルーミングと同様に猫における心因性脱毛症のカテゴリーに含まれるもので、その病因としては、一般にはストレス、不安、欲求不満などが高じることで生じる不安関連障害の一種である強迫性障害の関与が最も強く疑われます。

ただし、一次的な皮膚疾患、精神運動性発作(てんかん様発作)、知覚過敏症、飼主の関心を求める行動などでも同じような行動的な反応がみられることがあり、診断にあたっては少なくともそれらとの類症鑑別が必要になります。

なお、皮膚疾患については、猫さんには好酸球性肉芽腫の既往歴があるもののすでに寛解していることや、その後ステロイドや止痒薬のアポキルを使用した際に問題行動が改善されなかったことからみて、皮膚疾患に伴う掻痒症などが今回の問題行動に関与している可能性は否定できそうです。

精神運動性発作については、しばしば知覚過敏症と似通った行動的反応がみられることがあり、神経学的な異常を直接証明するか抗てんかん薬による診断的治療を試みないと、その可能性を完全には否定できません。

知覚過敏症については、今回の問題行動では知覚神経障害を示唆する、皮筋が痙攣し背中の皮膚が波打つような反応がみられることでその可能性は高まります。ほかにもいきなり飛び上がったり、唐突に鳴き声をあげたり、走って隠れるなどの不自然な行動を伴うようだとさらに可能性は高まります。

関心を求める行動については、飼主さんと猫さんの日常的な関わり方が鍵になりますが、今回の問題行動が百パーセントそれではないにせよ、猫さんには少なからずそのような行動傾向があり、それがなんらかの影響を及ぼしている可能性はありそうです。飼主さんの見ている前でしか問題行動が起こらないのであれば確実です。

以上の観点からすれば、鑑別診断ということではさらに精査しないと除外できないケースもあり完全な病因の絞り込みはできませんが、ここは猫さんの状態に鑑みその負担を極力避ける方向で、かつ診断的治療という意味合いからも差し当たってはセロトニン作動薬など抗不安薬による薬物治療も含めて、ご質問にある治療を進められては如何かと思います。

ほかには、日常的に猫さんとの関わり合いは常に飼主さんが主導権を持つようにし、関わり合いを始めるのも終わらせるのも飼主さんのペースで行うようにします。猫さんが何か要求してきても一切関心を向けず、落ち着いて静かにしている時にだけ関心を与えることに徹し、問題行動が始まったならば猫さんの気をそらすようにして行動を遊びに向けさせます。そのほかにも幾つかの行動療法を効果的に組み合わせて行動修正を行いますが、そこまでは言及できませんので悪しからずご了承ください。

補足ですが、以前に好酸球性肉芽腫による自傷性皮膚炎を治療中、患部を舐めるのを防止するために長期にわたりエリザベス・カラーを装着していたようですが、そのような拘束的な道具の使用は、激しい痒みによって強いストレスが生じていた猫さんの不安のレベルを上昇させるだけで、舐めるのはやめさせられても結果的にさらに不安と欲求不満を増加させてしまうため使用はお勧めできません。今回の問題行動がエリザベス・カラーを外した直後から始まったことを考えると、少なくともその装着がなんらかの影響を及ぼしたことは十分に窺えます。



★★相談内容★★

大変ご丁寧で詳細なご返答まことにありがとうございます。ご教示いただきました内容では、素人の考えですが、知覚神経障害の症状に最も近いかと思いました。飼い主のいない時にも毛をむしっており、見ているときにむしる時は背中のピクつきがあり、発作的です。それ意外にも急に走る、大声で鳴く等の行動がみられます。また、ここ2・3日はかなり運動量を増加させたところ、あまり毛を抜いておりませんので、ストレスが関わっている可能性も濃厚であると感じました。検討の上、治療に関しては状況に応じ電話での診療を改めてお願い申し上げるかもしれません。

まずは、心配するあまり猫の要求に100%応じてしまうようなところがあったため、適切な関わり方をし、またできるだけ運動させる等ストレスに配慮しようと思います。エリザベスカラーは,装着時見るからにストレスを感じていそうであり、かわいそうなことをしてしまいました。大変貴重なご教示に、改めて御礼申し上げます。