はじめまして。猫の凶暴化で悩んでおります。猫は12才雑種のオス(去勢済み)です。完全室内飼いで、とても臆病で人に構われるのを嫌う性格です。長い間共に生活しているにも関わらず、未だに父を怖がります。また、母には膝に乗るなど自分から甘えたがります。私には気分次第で抱っこはさせてくれますが、なで続けたりすると怒って噛みます。健康状態は、腎臓が少し悪くなりつつあり、食事療法をしています。食欲が異常なほどあり、甲状腺機能亢進症の疑いがあると言われたこともあります。
始まりは4月半ば頃、部屋のソファに座っていた私の二の腕にじゃれてきた際に、強く噛んだため大きな声で叱りました。後から調べて、誤った対応をしていたのだと分かったのですが、この時は思い至らず、さらにしつこく攻撃してきたためお尻を手のひらで叩きました。するとますます興奮状態になり、聞いたこともないような声を上げながら目をギラつかせて飛びかかって来て、身の危険を感じたため部屋の外に出そうと体を掴むと、手当り次第に噛み付いてきて、何とか廊下に出した頃には腕が血だらけになっていました。
猫はドア越しに大声で鳴き続けていましたが、経験したことがない事態に私もパニック状態でした。翌朝恐る恐る顔を合わせると、猫はケロッとしており、他の家族にはなんの変化もないようでした。腕はしばらく通院が必要な状態でしたが、その後しばらくは落ち着いており一時的なものだったのかな?と不安が溶けてきた頃、今度は母に怪我をさせてしまいました。おやつをなかなかくれないことに腹を立てたのだと思うとことですが、母は足を酷く噛まれこちらもまた病院通いする羽目になってしまいました。
それからしばらくは何事も無かったのですが、8月にまた私に飛びかかって来ようとしたため無理矢理部屋から出そうとしたところ、腕を噛まれて怪我をしました。なにもしてこないことも多いのですが、ふとした時に思いついたように通りがかりに足に噛み付こうとしてきて、なんとかかわしながら別の部屋に逃げたりしています。段々と猫が恐怖の対象にしかならなくなりつつあり、辛いです。
かかりつけの動物病院に相談したのですが、腎臓が悪いため薬を使うことはおすすめできない、おもちゃ等で気をそらすといいと言われ、部屋を移動する時は猫じゃらしを携帯しているという日常になっています。毎日とは行きませんが、週に4、5回10分くらい(これ以上は猫が飽きて離れます)遊ばせたりしているのですが、足りないのでしょうか?先述したように母以外に触られることを嫌がるため直接的なコミュニケーションは難しいです。最近フェリウェイを試し始めましたが、まだ効果が見えません。
また、1週間ほど前に捨てられた子猫を保護して、部屋に隔離していますが、この調子では一緒に飼うのは難しいのかなと悩んでいます。子猫がまだ会わせられる状態ではないので対面させてはいませんが、子猫の鳴き声に反応してドアの外ですごい声で鳴きます。長くなってしまいましたが、なにか他に対処法がありましたらご教授頂けると幸いです。よろしくお願い致します。
猫さんについては、まずは日常的に問題となる行動反応を引き起こす可能性が高いとされている身体的な病気の有無をチェックし、今回の問題行動の原因にそれらの基礎疾患が関与していないかどうか鑑別する必要があります。
とりわけ過去にその疑いを指摘されたことのある甲状腺機能亢進症ですが、高齢の猫に多く見られ基礎代謝が異常に亢進するこの病気では、活動性が著しく高まり些細なことで怒りやすくなるといった性格の変化を来すことがあるので、念のため血中の甲状腺ホルモンの量を測定しておくことをお勧めします。
ほかにも炎症などによる痛みを伴う尿石症や歯周病、変形性関節症などの猫では、痛みに対する恐怖からしばしば疼痛性攻撃行動が見られることがあるので、体に触られたりするのを極度に嫌がるような猫の場合は、あらかじめこういった疾患をも鑑別する必要があります。
その結果何らかの身体的疾患の存在が明らかになった場合は、それらを治療することでそれに付随する問題行動も自ずと改善されることになりますが、一応今回のケースにおいてそういった基礎疾患が全て否定されたと仮定した場合にはどう解釈したらいいのか、その点について当方の見解を以下に示しておきます。
おたくの猫さんの場合、ご家族の皆さんに対する関わり方や反応が相手によって明らかに異なります。そのように相手によって交流の仕方を変えるのは、優位性の主張が根底にある地位関連性攻撃行動を起こしやすい猫に多く見られる行動パターンで、お互いの優劣関係をどう認識しているかで相手への態度が変わってくるわけです。
さらには、いわゆる気分屋で撫で続けていると咬みついてくるといった愛撫誘発性攻撃行動も見られる上、相手の動線をコントロールしようとして傍を通っただけで足を咬んできたり、自らの意にそぐわないことをされただけで相手を威嚇したり攻撃するといったことからは自己主張の強さが窺われます。ほかにも、日常的に様々な状況を自ら支配しようという強い意思も随所に感じられます。
こういった猫の場合は、自分の行動に対して相手が少しでも反発するような素振りを見せれば、それは全て自分の地位に挑戦しようとする行為とみなして激しい攻撃に出ることが多々あり、おたくの猫さんにもその傾向が表れていることはこれまでの経緯からも明らかです。このような状況を繰り返していると、自分が攻勢に出れば必ず相手がひるんで服従することを猫さんが学習してしまい、その行動を正当化して益々強化していってしまいます。
それを避けるためには、猫さんを刺激して攻撃的な情動反応を生じさせるような、いわゆるこちらが挑発したととられかねない関わり方は一切避けることが必要です。基本的にはそういった環境改善を一方で進めつつ、その上で猫さんに望ましい行動を再学習させるための行動修正を行うことになりますが、そのような具体的な行動治療の方法についてここで示すことはできませんので改めて受診をご検討ください。