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猫アニメ

猫の問題行動に関する相談事例


No.75:転嫁性攻撃行動の猫を隔離するのは虐待?


★★相談内容★★

飼い猫の転嫁性攻撃についてご相談したく、ご連絡いたしました。

■飼い猫について

・アビシニアン・メス・15歳

・性格はビビりですが気が強く、攻撃的。私以外の人間には懐いておらず、顔を見れば威嚇することが多い。普段は甘ったれでそばにいることが多い。

■状況

・6〜7年前に初めて転嫁性攻撃でパニック状態になった。

・原因は引っ越しでストレスがたまっていたところに、恐らく野良猫がベランダに現れたこと(夜中だったので野良猫かの確信はありません)。

・発生頻度:数年に1度(大きいのは今回のを入れて3回で1度パニック状態になると、その後数ヶ月はまた何かがきっかけで飛びかかってくるような不安定な状態が続く)。

・対応:パニックが落ち着くまで数日間部屋に隔離する。その後は徐々に一緒にいる時間を増やしていく。

・落ち着きさえすれば、以前のように抱っこや一緒に寝ることも可能になる。

■経緯

・今年の5月に3年ぶりに転嫁性攻撃でパニック状態になり、数日で落ち着いたが、また7月23日におしっこを撒き散らす位のパニック状態になる(原因不明、フラッシュバック?)。

・いつもは数日で撫でたりできるまで落ち着くが、今回は1週間経っても警戒がとけず長引き、トイレ掃除がろくに出来ない状態だったので、かかりつけ医にアセプロマジンをもらい、今は日々のお世話を優先してケージにいれています(ケージの大きさは2段でL字型に3つ繋げています)。

・物理的に攻撃できない状況にあることで私がいつも通りの態度でいるからか、撫でたり手を舐めてくれたりしますが、たまに凄く不安と恐怖を感じているような顔をして緊張した鳴き声を出すことがあり、まだ完全には安心できない状態です。

■ご相談したいこと

・猫が安心して生活してもらうためにはどうしたらよいか。

・ケージでもう少し落ち着くまで待ち、徐々にケージの外で過ごす時間を増やしていきたいと考えているが、落ち着いたの判断をどこでしたらいいか分かりません。

・ケージ飼いは虐待だと猫の保護活動をしている知り合いに言われてしまい、私自身がパニックのきっかけになっているのならいっそ新しい環境でケージではなく自由に暮らせる方がよいのか(その保護活動をしている人が引き取ってもよいと言っている。ですが出来れば私は手放したくありません)。

10年以上一緒に暮らしてきた、手はかかりますが本当に本当に大切で可愛い家族です。飼い主として何が適切な判断なのかご相談させて下さい。よろしくお願いいたします。



★★助言内容★★

転嫁性攻撃行動は、たまたま側に居合わせた飼い主の方など不適切な対象へと転嫁された攻撃行動であるため、その行動の裏には必ずそれに先立って猫を興奮状態にさせ、その元となる攻撃行動を誘発させたなんらかの原因があるはずです。

今回のケースでは、当初ベランダに現れた野良猫が原因となって誘発された猫さんの攻撃行動が、無関係な他者へと転嫁された可能性を指摘しておられますが、その後も起きている攻撃行動が同じ原因によるものなのかは定かではなく、野良猫以外にも一次的な攻撃反応のきっかけとなる何らかの刺激が存在する可能性も否定できませんので、その点も念頭に置かれた上で諸々判断なさった方がよろしいかと思います。

通常そのような転嫁性攻撃行動への対処法としては、まずは最初に猫さんを攻撃的にさせた原因を明らかにするとともに、そのきっかけとなる刺激に晒されるのを防ぐためそれとの接触を避けたり制限したりします。また必要に応じて脱感作や拮抗条件づけといった行動治療も併用します。

ただし、元の原因が特定できないため本来の攻撃行動の治療が困難であったりどうしてもそれを回避できない場合には、興奮して攻撃的になった猫を不用意に刺激しないよう餌、水、トイレを置いた静かな部屋やケージに隔離し、出来るだけ近づかないようにしてその興奮状態が収まるのを焦らず待つしかありません。

なお、隔離は猫さんの状態により数日から数週間を要することがありますが、そのような拘束された生活が生涯にわたって続くのならいざ知らず、あくまでも治療のための一時的な措置である限りそれは言われているような虐待にはあたらないでしょう。言ってみれば絶対安静を必要とする間は、患者にベッドの上でおとなしく寝ているいることを強いるのと何ら変わりはありません。

それから、隔離中に猫さんが落ち着きを取り戻したかどうかどうやって見極めるかですが、ケージに近づいたりした際にあからさまに威嚇してきたりしなくても、表情などから緊張した様子が見てとれるようであればまだ危険です。そんな時はそのまま接触を続けてしまってはいけません。猫さんの興奮が高まり攻撃的な行動反応が起きてしまう前に、すぐにその場を離れてください。

すなわち猫さんの素振りが一見落ち着いているように見えても、当初の興奮が完全に収まっていないかぎり一触即発の状態は続いています。そのような状況であなたとの接触が刺激となり、一旦攻撃的な行動反応が起きてしまえば元の木阿弥で隔離前の状態に逆戻りしてしまうばかりか、そうやって同じ刺激が繰り返されてしまうと益々猫さんの反応が強化され、事態は悪化の一途を辿りますので呉々もご注意ください。

ただし十分な注意を払って対応しているにもかかわらず、猫さんの状態が一向に改善されず隔離生活から解放できないといった場合は、抗不安薬や抗うつ薬などの向精神薬を継続的に用いるなどして、猫さんの脳神経系における緊張を緩和させることで刺激〜反応の閾値を上げてやることも必要です。

その場合、今回処方されたアセプロマジンのような抗精神病薬は、動物の問題行動の治療では作用が一定せず過鎮静を来しやすくて学習を阻害するため不向きです。したがって動物での適応は人の場合とは異なり、主に前麻酔薬として扱いにくい動物を鎮静させてコントロールしやすくしたり、鎮吐薬として乗り物酔いによる嘔吐を抑えるといったことに使われるのが一般的で、今回のようなケースにはお勧めできません。

ということでここまでは、今回のケースをあなたが言っておられる転嫁性攻撃行動であると仮定してその前提で意見を述べさせていただきましたが、実際のところ相談内容にある情報だけでそれと断定するのはいささか無理があります。仮にほかのタイプの攻撃行動だった場合は、当然先の対応方法も一から見直しが必要になるかもしれません。

今現在がそのような不確実な状況であるにもかかわらず、敢えてここで猫さんの今後の処遇について結論を出してしまうのは決して望ましいことではなく、この際猫さんが安心して生活できるようこれまでの攻撃行動の原因を徹底究明して適切な対応を行うためにも、改めてそれを専門とする行動診療科の受診を強くお勧めします。最終的な判断はその後ででしょう。