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猫アニメ

猫の問題行動に関する相談事例


No.85:趾間炎を繰り返すのは強迫性障害かも


★★相談内容★★

相談失礼いたします。現在4歳のロシアンブルー(雄、去勢済み)を飼っています。元々甘えん坊で、甘やかして育てていました。1歳前に一度趾間炎を発症し、その時は近医で『足の裏が濡れたことで起こったのでしょう』と言われ、軟膏とエリザベスカラーで対応して治っていました。

その後2018年春に私が出産し3カ月の里帰り後の2018年7月から趾間炎が再発し、治っては再発を繰り返すようになりました。アレルギーを疑い血液検査をし、様々なアレルギーに反応があったため除去食を取り入れましたが変化なく、皮膚科専門病院も受診しました。その際、初発からの経過をお話し、これまでの結果も踏まえて、やはりストレス(赤ん坊が来たこと)が関係するだろうと抗不安薬を内服してみたところ治癒した経由があります。

ただ飲み始めたタイミングで、今度は膀胱炎を発症したため、そちらの影響もあって、趾間に気がいかなくなったようにも思いました。その後膀胱炎の療養食に変わり、膀胱炎も趾間炎も落ちついていたのですが、2日前から再度急に趾間炎(右後ろ足の趾間)を再発してしまいました。私もショックで、急いでカラーを使用し、以前頂いた抗ヒスタミン薬(抗不安薬のあとに今度起こった時はこちらを、と渡されていたものです)を飲ませたのですが、眠気がすごいようでいつも寝ています。そのせいで舐め行動ができないという効果?はあるのかもしれませんが心配なので、一回 で辞めてしまいました。

今回ストレスとして思い当たるのは、旅行で2泊3日お留守番をさせたことと、子供も大きくなり、猫にかなりちょっかいを出してしまうことだと思います。とにかくカラーで行動を制限させてしまうのが見ていて辛く、この趾間炎をできる限り予防してあげたいのですが、やはりこのような舐め行動は精神的な問題なのでしょうか。些細なことではありますが、本当に困っております。携帯からなので、文章が読みにくく大変申し訳ありません。



★★助言内容★★

猫さんの場合、血液検査で様々なアレルゲンに対して陽性反応を示していることからみて、これまでに再発を繰り返している趾間炎はアトピー性皮膚炎が原因である可能性が高いようですが、そのようなアトピー性疾患の発症にはアレルギー以外にストレスが関与していることも知られており、ほかにも同様にストレスの関与が疑われる膀胱炎(特発性?)の既往歴など猫さんに関するその他の情報を重ね合わせると、今回のケースにおいてはストレスが極めて重要なキーワードであることはほぼ間違いなさそうです。

ところで飼い主さんから見た猫さんの印象は甘えん坊であるということですが、一般にそんな風に思われている猫の多くが成長後も幼児性を強く宿している幼形成熟と呼ばれる個体に見られる、ストレス耐性がなく些細なことで心理的動揺をきたしたり分離不安などの不安障害を起こしやすいといった特徴を有しています。したがって猫さんの場合も、新しい家族(赤ん坊の存在)が増えたりしたことで強いストレスが生じ、それが原因で日に日に不安が募るようになっていたであろうことは想像に難くありません。

なお猫においては、そのようにストレスによって不安が増すと突然脈絡もなく唐突に体を舐め始めたりすることがよくありますが、そのような行動は転位活動と呼ばれるもので、その間は脳内にオピオイド(脳内モルヒネ)という物質が放出されるため不安が一時的に解消されます。ただし、この行動はストレスが慢性化し不安な状態が続いているような状況では自己強化され、その結果常習化することで常同症という新たな問題行動を招くことになります。

そこで危惧されるのは、ただでさえ趾間炎に伴う痒みから患部を舐めたくてたまらない猫さんに、このような転位活動が常習的に起こるようになってしまった場合、そこから更に厄介な問題にまで事態が進展して行きかねないことです。すなわち、もはや最初に趾間を舐めるきっかけとなった痒みという刺激の有る無しにかかわらず、そこを舐めずにはいられないという強迫観念を抑えられなくなる強迫性障害(強迫神経症)がそれです。

猫さんの場合すでにその強迫性障害に陥っている可能性を否定できませんが、そうであるなしにかかわらずまずは猫さんの不安を解消するために、環境改善を含めストレスの原因はすべて取り除く必要があるでしょうね。その意味でも、エリザベスカラーのような拘束具を心因性が疑われる今回のようなケースに用いるのは、ストレスに追い討ちをかけていたずらに不安を増大させるだけの、本末転倒以外の何ものでもありませんので推奨できません。

それよりも、常同症や強迫性障害にようにストレスからくる不安が原因で痒みの有る無しに関係なく趾間を舐めているのであれば、抗不安薬を継続的に服用させることでその行動はコントロールできますのでそちらをお勧めします。というよりも、上述したようなケースには行動療法とともに薬物療法による薬理学的介入が必要不可欠ですのでご参考までに。