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猫アニメ

猫の問題行動に関する相談事例


No.92:甲状腺機能亢進症も優位性攻撃行動も疑わしそう


★★相談内容★★

はじめまして。猫の凶暴化で悩んでおります。猫は12才雑種のオス(去勢済み)です。完全室内飼いで、とても臆病で人に構われるのを嫌う性格です。長い間共に生活しているにも関わらず、未だに父を怖がります。また、母には膝に乗るなど自分から甘えたがります。私には気分次第で抱っこはさせてくれますが、なで続けたりすると怒って噛みます。健康状態は、腎臓が少し悪くなりつつあり、食事療法をしています。食欲が異常なほどあり、甲状腺機能亢進症の疑いがあると言われたこともあります。

始まりは4月半ば頃、部屋のソファに座っていた私の二の腕にじゃれてきた際に、強く噛んだため大きな声で叱りました。後から調べて、誤った対応をしていたのだと分かったのですが、この時は思い至らず、さらにしつこく攻撃してきたためお尻を手のひらで叩きました。するとますます興奮状態になり、聞いたこともないような声を上げながら目をギラつかせて飛びかかって来て、身の危険を感じたため部屋の外に出そうと体を掴むと、手当り次第に噛み付いてきて、何とか廊下に出した頃には腕が血だらけになっていました。猫はドア越しに大声で鳴き続けていましたが、経験したことがない事態に私もパニック状態でした。翌朝恐る恐る顔を合わせる と、猫はケロッとしており、他の家族にはなんの変化もないようでした。腕はしばらく通院が必要な状態でしたが、その後しばらくは落ち着いており一時的なものだったのかな?と不安が溶けてきた頃、今度は母に怪我をさせてしまいました。おやつをなかなかくれないことに腹を立てたのだと思うとことですが、母は足を酷く噛まれこちらもまた病院通いする羽目になってしまいました。

それからしばらくは何事も無かったのですが、8月にまた私に飛びかかって来ようとしたため無理矢理部屋から出そうとしたところ、腕を噛まれて怪我をしました。なにもしてこないことも多いのですが、ふとした時に思いついたように通りがかりに足に噛み付こうとしてきて、なんとかかわしながら別の部屋に逃げたりしています。段々と猫が恐怖の対象にしかならなくなりつつあり、辛いです。かかりつけの動物病院に相談したのですが、腎臓が悪いため薬を使うことはおすすめできない、おもちゃ等で気をそらすといいと言われ、部屋を移動する時は猫じゃらしを携帯しているという日常になっています。毎日とは行きませんが、週に4、5回10分くらい(これ以上は猫が飽きて離れます)遊ばせたりしているのですが、足りないのでしょうか?先述したように母以外に触られることを嫌がるため直接的なコミュニケーションは難しいです。最近フェリウェイを試し始めましたが、まだ効果が見えません。

また、1週間ほど前に捨てられた子猫を保護して、部屋に隔離していますが、この調子では一緒に飼うのは難しいのかなと悩んでいます。子猫がまだ会わせられる状態ではないので対面させてはいませんが、子猫の鳴き声に反応してドアの外ですごい声で鳴きます。長くなってしまいましたが、なにか他に対処法がありましたらご教授頂けると幸いです。よろしくお願い致します



★★助言内容★★

猫さんの場合、甲状腺機能亢進症の疑いがあると言われているようですが、この疾患においては、恒常的に気分が高揚して些細なことで激しやすくなるといった性格の変化を来すことがよくあります。今回の猫さんの一連の行動にもその徴候らしきものが見受けられることから、まずは血中の甲状腺ホルモンを測定するなどして、そのような身体的な基礎疾患がないかどうか確認してみることをお勧めします。そこで甲状腺機能亢進症と診断された場合は、ほかにメンタルな要因が複合的に関与している攻撃行動であったとしても、その基礎疾患を優先的に治療しない限り猫さんの問題行動の改善は望めません。

なお甲状腺機能亢進症のあるなしは別として、改めて猫さんの攻撃行動のタイプを類推するにあたってその特徴を見てみると、注目すべき点はいずれも明らかに相手の挑発的な行為によって攻撃が誘発されているということです。それはおそらく、猫さんがそのような相手の行為を自分への挑戦とみなしたためでしょう。叱ったり叩いたりはもとより、ほかにも猫さんが望んではいないことやその意に反することなどをされた時にもそれが起きています。一見それとは関係なさそうな撫でていると突然噛みついてくるといった飼い主にとっては理不尽な行動も、実は愛撫誘発性攻撃行動と言って同じ性質のものです。

そのような行動をとる猫の多くが干渉されることを嫌いマイペースで行動したがる俗に言うツンデレタイプであるうえに、しばしば同居する飼い主やほかの猫に対して優位性を主張することで相手を支配しようとする傾向が見られます。そういった猫に対して、こちらがその行動要求に気づかず猫の意にそぐわないことをしてしまった時などに起き易いのが、いわゆる優位性攻撃行動もしくは地位関連性攻撃行動と呼ばれる猫の自己主張による攻撃行動であり、おたくの猫さんの場合もそれが疑われます。

なおその際にあなたとお母さんが専ら攻撃の対象になってしまっているのは、まさか相手に自分の優位性をアピールするために猫さんが色々要求してきているなどとは思いもよらず、日頃からそういった要求を無意識に受け入れてしまっていたことが多分その原因でしょうね。その結果双方の関係が猫さん優位になることで、その意にそぐわないことや気に入らないことをする相手にはキレて攻撃するようになってしまうというわけです。したがって、猫さんが自分よりも優位だと思っているお父さんのような相手はこの攻撃の対象にはならないはずです。

そのような猫さんと交流するにあたって最も注意すべきことは、何事も決して相手の都合に合わせてはいけないということです。如何なる場合でも猫さんからの要求には一切応じないようにするとともに、反対に猫さんにはその都度こちらから何か要求し返す(何かをするように仕向ける)ようにすることで、これまでは猫さんの都合に合わせていた双方の関係を逆転させ、改めて飼い主さんの側が全てにおいて主導権を持つような関係に変えてゆく必要があります。

その意味では通りがかりに足に噛みついてくる猫さんの行動も、動線のコントロールと言ってここを通るなという要求である可能性が高いため、出来る限り床に寝そべっている猫さんの横は避けて通るようにするのが基本です。場合によっては、おやつなどを投げてそちらに猫さんを誘導してしまうといった具合に、こちらがその場の主導権を握るためにあえて状況を変えてしまうことも効果的です。

遊ばせる時も同様で、猫さんに催促されて遊びを始めたり、猫さんが飽きたり疲れたりして自分からそれをやめるまで続けては駄目です。遊びを始めるのも終わらせるのも常に飼い主さん主導です。食餌やおやつも猫さんが欲しがる前に与えるか、欲しがっている間は無視し欲しがらずに静かにしていたら与えるようにします。ほかにも向こうから何かしてきても無視して相手にせず相手をする時は常にこちらから、ただし嫌がることを無理強いはしないというスタンスを貫徹します。

優位性攻撃行動が見られる猫に対しては、そのように日常的な交流の仕方を改めて見直すことが不可欠であり、それによってお互いの関係を再構築することが求められることになります。猫さんの場合もそれが当てはまるケースであることを疑うに足る根拠は十分にありますので、今後具体的な実施を考える余地はかなりありそうですね。猫さんのようなタイプの場合、新参猫とは特別仲良しということでもなくつかず離れずの関係になることが多いので、仔猫についても特に心配されるような問題は起こらないでしょう。