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猫アニメ

猫の問題行動に関する相談事例


No.96:刺激般化により恐怖反応の対象が拡大


★★相談内容★★

はじめまして。 我が家の猫の異常行動について教えて下さい。兄猫(8歳・マンチカン・♂)と弟猫2歳・マンチカン・♂)と母・私・弟で住んでいます。兄猫と弟猫は男同士なのもあり、あまり仲は良くなくでも一定の距離感を保って生活していました。兄猫の性格は怖がり、甘えん坊、怒りん坊、病院や爪切りなど嫌なことは全力で威嚇します。どちらかと言うと大人しい性格かなと思います。弟猫の性格はやんちゃ、人間には噛んだりしない、病院や爪切りも嫌がりはしますが威嚇もほぼなし。兄猫のことは嫌ってるんだろうな、といった感じです。たまに毛束が抜け落ちてるような喧嘩もしますが、流血沙汰になるような壮絶な喧嘩はしませんしどちらかが力加減が強そうな場合は気付いた家族が仲裁したりしていました。

昨日の夜遅く突然すごい怒った声で兄猫が弟猫と喧嘩を始めたらしく、私の母が2匹の間に手を入れ弟猫を剥がし弟に渡して部屋を隔離しました。兄猫はそれから人間にも物凄く威嚇するようになり、立ったり座ったり近くを横切ったりしただけで怒ります。何が気に入らなかったのか、何故弟猫にいきなり怒ったのか理由が全くわからず、何をしたら嫌なのか今日一日は手探りで様子を伺っていました。今日分かったことは、じっと座っていたり寝転んでいる人間に兄猫が自分から近付いて来るのは大丈夫なようで、その時は触れますし頭を押し付けてスリスリのような行動もしますが、こちら側から兄猫のいる方向に向か って歩いたり近付いたりすることには物凄く怒ります。フー!シャー!は当たり前で、唸っていることもあります。

しばらく兄猫は怯えてテーブルの下から威嚇していたりしましたが、今は私のいる場所の近くで香箱で過ごしている時間が多いです。用事があって立たなければいけないとき(御手洗など)に兄猫が動線にいたりすると、やはり物凄く威嚇されます。怯えからくる防御威嚇なのだろうと思うのですが、その割には人気のないところに隠れたりなどの行動はなく、いつも人気のある場所にだいたいいます。多分気にせず近づくと攻撃されるのだろうな、と思っているのでなるべく兄猫が別の場所にいるときに移動したり歩いたり、と人間はかなり気を使 って過ごしていました。

色々検索して調べて、激怒症候群かな?と思ったのですが元に戻ってる時間がないので一時的なてんかんの一種とは思えず。転嫁行動なのかな?と思っています。弟猫はやんちゃな性格なのもあり、よく兄猫の居場所を取ったりと日々ちょっとしたストレスが兄猫にもあったと思うのでそのストレスの積み重ねが爆発したのかな…なども考えられますが、弟猫を迎えて2年生活してて今回初めての出来事なので一体何がダメだったのか、兄猫の沸点がわからず…という状況です。喧嘩の時に止めに入った母と、喧嘩相手の弟猫に対しての方が私と弟に対する威嚇よりひどいようにも感じられます。

弟猫は別室に隔離し、しばらく様子を見ていたのですが時間が経ってもう全然怒っている様子ではなく、部屋から出してくれー!と鳴いていることもあります。兄猫は病院も大嫌いなので連れて行くことが悪化に繋がったらどうしよう…と、どうすることもできないまま一日が経ちこちらから相談させていただきました。トイレやご飯などはいつもに比べると減ってはいますが、ちゃんと食べたりしています。もしよろしければお返事お待ちしております。



★★助言内容★★

兄猫さんがご家族を威嚇し始めたそのきっかけとなった弟猫さんとの喧嘩に関しては、どなたも現場を見ていないようなので両者の間に一体何があったのか定かではありませんが、とりあえず弟猫さんの年齢や性格および兄猫さんとのこれまでの関係などを参考にして喧嘩の原因を推測してみました。

弟猫さんの2歳という年齢は猫においては社会的成熟期と言われる時期に相当しますが、それを機に社会環境に対する猫の見方が変わってくるために同居猫などとの関係に変化が生じることがあります。その場合に多いのが、その時期の猫では自己主張が強まるために相手との力関係や序列をめぐって自己の優位性を主張し始めるようになり、同居猫がそれを許さず対決姿勢を取ろうとした場合に両者の間で争いが起きてしまうといったケースです。

弟猫さんの場合は、飼い主さんの印象どおりであれば能動的で物怖じしない性格であることが窺われますが、そのような猫が社会的成熟期を迎えて社会環境を見る目が変わった場合、仔猫の時は一歩引いて見ていた兄猫さんとの関係を自分優位な関係に変えようとして、事あるごとに相手に対して攻勢的な態度を取るようになるのはよくあることです。相手が気弱で臆病な性格であれば尚更です。

今回のケースでは、そのようなことが背景としてあったがために自己主張が次第に強まってきていた弟猫さんが、何かを主張しようとしてこれまでないような攻勢的な行動に出たことで、守勢にまわった兄猫さんが相手に脅威を感じて恐怖による過剰な反応を示してしまい、それが激しい喧嘩を引き起こす原因になってしまったのではないでしょうか。先に述べた対決姿勢とは真逆の行動ですが、それが攻撃行動に結びついているところは同じと言えるでしょう。

すなわち、兄猫さんが強くて自信に溢れた猫であれば同じように喧嘩になったとしても、その動機は専ら自分に挑戦してきたことへの怒りからくる攻撃的な情動でしょう。しかしながら兄猫さんの場合はその性格から考えればそれではなく、一転して自分を威圧してきた弟猫さんへの恐怖といったものがその動機となった可能性が極めて高いということです。

したがって、その後に起きているご家族への兄猫さんの威嚇についても、転嫁性攻撃行動のような本来は弟猫さんに向けられる怒りによる攻撃が飼い主さんに転嫁されたものと考えるよりも、当初は弟猫さんに対する恐怖反応として起きた防御的な攻撃行動と同じものが、ほかの刺激(今回は飼い主さん)に対しても起きてしまったと考える方が適当ではないかと思われます。

このような刺激のグループ化や刺激般化と言われる現象は、特定のものに対する恐怖反応が高じて攻撃的になってしまった猫ではよく見られますが、元々の恐怖の原因を排除できないでいると状態は悪化することがあります。今回その原因が弟猫さんであるということになると取り除くことはできませんので、改めて両者の折り合いがつくような関係を構築するため然るべきプログラムに則って行動修正を行う必要がありますが、それをすることで兄猫さんの飼い主さんに対する威嚇行動も改善されると思います。



★★相談内容★★

お忙しい中、私の話を聞いてお返事くださって本当にありがとうございます。兄猫が繊細で神経質な性格なので、この度の騒動の原因は兄猫の一次的なものなのかな?と思っていたところに先生の推測を聞かせてもらい、どちらか一方だけの問題ではないのか…と反省しました。もちろんどちらが悪いと決めつけて過ごすつもりではなく、こんなに長く暮らしていて理解ができなかった私たち飼い主に責任があると思っておりすごく反省してます。相談させて頂いた日からまた時間が経ち、兄猫の威嚇ももうほぼなくなりました。隔離していた弟猫も私がいる時間は兄猫と一緒の部屋で過ごさせたりしたのですが、特に何事もなかったような今までと同じような感じで過ごしていました(元々仲が良くなかったので距離はありますが)。ただ、留守の時間や寝ている時間に何かあると怖いので、人が見てない時は隔離しています。

先生が仰る、行動修正のプログラムと言うのはどういった内容なのか聞くことはできますか?お時間があるときで大丈夫ですので、また返信いただけたらと思います。あと、まだ解決したとは言えないですが先生からもらったメールは本当に親身に考えてもらえてるなぁと感じました。とても嬉しかったです。ありがとうございます。