初めまして。飼っている猫(ロシアンブルー、8歳、メス、室内飼い)についてご相談があります。性格はじゃれることはあっても人に攻撃をすることなど考えられないくらい温和な性格です。ただ、ほかの猫よりも臆病な性格です。11月にマンションから一戸建てに引っ越してきましたが、3週間目に私に威嚇をするようになりました。以前、マンションぐらしをしている時に実家(戸建)に帰省したときにも同じことが過去2回ありました。
症状としては・・・・最初の1週間ほどは最初少しそわそわはしているが、しばらくするといつもと変わらず落ち着いた様子になる。・威嚇をする発端となるのは、1週間ほど経過し私が近づいたとき(向こうから寄ってきて威嚇することはない)。・威嚇&攻撃をするときは、恐怖のあまり(?)排尿しながら暴れる。・別の部屋に隔離をしても、私が部屋の前を通り過ぎると寂しそうに鳴く。
過去の2回に関しては、主人に実家に来てもらい(主人にはまったく威嚇しない)、一緒にマンションに連れ帰りました。マンションに戻ると威嚇していたのが嘘のようにけろっとしていました。今回の引越しに際しては、過去のこともあるので、前もって動物病院の先生に精神安定剤(ホリゾン2mg)を2週間分処方してもらいました。2週間の薬が終わり、結局さらに1週間たつとまた威嚇の症状が現れました。なぜかやはり主人には威嚇をしないので、昼間は別の部屋に隔離をし、主人が仕事から帰ってきたときにだけ開放(その時は私にも威嚇しません)。
1週間ほど前ですが、やっと歩み寄れたと思っていたのもつかの間、階段を上がるときに足にまとわりついてきた猫を踏んづけてしまい、主人と一緒のときでも私にだけ威嚇するようになり(主人にも少し威嚇するようになってしまいました)、今は開放せず隔離した状態が続いています。マンションに住んでいたときには、主人よりもむしろ私の方に懐いていたのに、踏んづけてしまった事以外原因がよくわかりません。引越しを期に今は仕事をしていないので、実家に帰ったとき同様、猫と一緒にいる時間は主人より長い。というのも要因のひとつなのでしょうか。
威嚇症状が現れる前は、私が2階に上がり姿が見えなくなると、普段は鳴かない大きな声で鳴き、声をかけると急いで付いてきました。やはり引越し(狭いマンションから、階段もある広いスペースにり不安?)のストレスなのでしょうか?猫はとても記憶力がいいと聞きましたが、このまま私にだけ威嚇し続けるのでしょうか?もともと人にべったりの猫なのでこのまま隔離したままで人間不信になるのでは・・・と心配しています。なにかよいアドバイスがあれば回答よろしくお願いします。
遺伝的に極めて内気な性格を持った猫の中には、怯えが高じると必ずといっていいほど攻撃的になるものがいます。今回のケースについてもそのような恐怖性攻撃行動がそもそもの発端となり、その後それに幾つかの別の要素が加わることで問題が複雑化してしまった可能性が高いと思われます。
猫は犬などに比べてその生活環境への依存度がはるかに高い動物です。したがって、飼い猫であれ野良猫であれ家の内外を問わずひとたび自らの生活圏がその場所に構築されると、人間によって別の場所に連れ出されるなどしてそこから離れるだけで、極度の不安によって非常に大きなストレスが生じます。引っ越しなどはその最たるものであり、当然のことながら内気な性格であればあるほどその深刻度は増します。自分がなれ親しんだ場所からある日突然連れ出され、生命を脅かされる危険が潜んでいるかもしれない場所に、何の拠り所もない状態でいきなり放り出されてそこでの生活を強要される。そんな自分を想像してみて下さい。そう北朝鮮による拉致被害者にでもなったつもりで。おそらく実家への帰省や引っ越しは、お宅の猫ちゃんの認識からすればそれに近いものがあるでしょう。
当初実家に連れて行かれた際に、「最初は少しそわそわしているが、しばらくするといつもと変わらず落ち着いた様子になる」というのはおそらくはそう見えただけです。猫はストレスによって緊張が高まると途端に活動性が低下し、一見しておとなしくてひかえめな猫になりますから。それの極めつけがフリージングといって固まってしまって動けなくなるケースです。少なくとも、その場から逃走するという防護的行動をとることもできず不安や恐怖に耐え忍ぶしかないという状況は、環境への順応がへたな内気で臆病な猫にとってみれば、過度の緊張を強いられるストレスまみれの毎日だったはずであり、今回はそれがピークに達したことで攻撃行動が出現したと見るべきでしょう。
すなわち、緊張が極限にまで高まっている猫に対し、その臨界距離(自己防衛に転ずる距離)を超えて突然誰かが急接近したような場合、それを猫が不意を襲われて追いつめられたというふうに認識してしまうと恐怖が臨界点を超えるため、猫は体を丸めて防護的姿勢をとったり相手を前肢で叩いたりして威嚇します。それでも相手が近づくのをやめなければ襲いかかって引っ掻いたり咬んだりする攻撃行動を示すことになります。このような恐怖性攻撃行動では、その際に今回のように尿をまき散らすことはごく普通に見られます。また、ひとたび恐怖が臨界点を超えてしまえば、相手は飼い主であろうと誰であろうと見境はありません。
今回のケースでは、結果的に猫を追いつめるような状況を作ってしまい、その攻撃行動を誘発させてしまったのがたまたま奥さんであったことから、おそらくは奥さんに不意に接近されたりすると恐怖反応が生じるようになり(これを条件づけられた状態といいます)、それを排除するためには威嚇したり攻撃するしか道がないと猫が学習してしまった可能性があります。いきなり猫を踏んづけてしまったことも猫にすれば不意に襲われたも同然であり、結果的にはそれが刺激の一般化を招き、さらに反応を助長するはめになってしまったと思います。奥さんだけでなく、新たにご主人に対しても威嚇行動が見られるようになったことがそれを物語っています。
残念ながら、このような問題行動は放置しておいて自然に消滅することはまずありません。なお、引っ越しに伴う猫ちゃんの現在の不安感情を取り除き、少しでも早く今の環境に順応できるよう後押ししてあげるためには、既にお使いになっているホリゾンなどの向精神薬の服用は有効ですが、今回のような問題行動に関しては、行動治療の補助手段として用いることはあってもそれ単独では効果は期待できません。
そこでこのようなケースでは、基本的には体系的脱感作や逆条件づけといった行動療法を用いて行動修正することになります。多くの問題行動は、そのような様々な行動療法を取り入れ、専門医によって作成されたプロトコールに則って行動修正を試みるのが一般的であり、そこで飼い主によって適切な対応がとられれば改善には相応の効果が期待できます。お宅の猫ちゃんの場合も、それがより深刻な問題となっているのであれば一度考慮されてみてはいかがでしょう