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猫アニメ

猫の問題行動に関する相談事例


No.77:てんかんにおける精神運動性発作かも


★★相談内容★★

五歳の雌猫のことでご相談です。ここ半年ほどの行動で気になることがあります。もともと神経質でいろんなところに粗相する黒猫でしたが、最近はいつも夕方くらいの決まった時間になると、粗相したあとに低い唸り声をあげて走りまわります。そのあとは急に大人しくなるのですが、私のことを始め見るような顔つきをし、近づこうとするととても怯えて叩いたりしてきます。そのときは必ずしきりに口をぺちゃぺちゃしながら舌なめずりをします。この一連の流れがセットで起こります。ただその間ご飯は食べています。しばらくすると何もなかったかのように甘えてくるのですがその豹変ぶりに心配しています。

その際の動画も撮影してかかりつけの獣医に相談しましたが、精神的なものだろう程度の答えでした。うるさい音が起こったなどのきっかけも考えましたが特に原因となるものがわかりません。もう一匹いますが、とても穏やかな性格でこうなったときはとても怖がっています。どちらの猫にとっても可哀想なのでどうにかしてあげたいのですが、何か理由があるのでしょうか?健康診断では特に異常はないのですが病気の可能性はないのでしょうか?



★★助言内容★★

判断材料に乏しいのでもちろん断定はできませんが、かなり特徴的と言える一連の行動を見ると、今回のケースはてんかん発作によるものかも知れません。

てんかん発作は、脳神経細胞の過剰放電によって脳の興奮性バランスが障害された結果、発作的な脳の過剰活動が起きる病気であり、臨床症状の現れ方によって全身性発作と部分発作(焦点性発作)に分類されます。なおその中でも、意識障害、行動異常、運動性活動の異常、感覚異常、自律神経機能障害を伴うものなど、放電が発生した部位やその広がりの程度あるいは関与する神経細胞の機能の違いなどにより発作のタイプは異なります。

そのうちの部分発作については、上述したような発作のタイプの違いから更に部分運動性発作、精神運動性発作、感覚性発作に分類されますが、今回の猫さんの行動を見てみると、その中のとりわけ精神運動性発作における特徴的な発作活動らしきものがいくつも見受けられます。

例えば精神運動性発作では、毎回同じように突然始まると抑制が効かないまま鳴き声をあげて短時間(多くは数分)走り回るといった 、常同的で反目的的で反復的な運動活動を伴った行動異常が観察されていますが、半年ほど前から一連の流れのように儀式的に繰り返されるようになった猫さんの行動は、まさにそれに当てはまります。

ほかにも、精神運動性発作では意識が変化したり怒りによる攻撃性などが現れることがありますが、問題行動時の猫さんの顔つきがあなたを始めて見るようであったり、怯えて叩いたりするのもそれが原因かも知れません。更に毎回見られる粗相についても、自律神経機能障害によるものである可能性が示唆されるとともに、口をペチャペチャさせて舌舐めずりするといった行動からは、これも過剰な流涎という精神運動性発作に見られる徴候が疑われます。

もしそれらに加え、何かを突然舐め始めたりがつがつと食べたり飲んだりするといった徴候や、体に震えが来る振戦といった徴候までも見られるようならば疑いは更に強まります。したがって今回のケースについては、そのようなことを踏まえ一応念のためにてんかんにおける精神運動性発作を疑ってみた方がいいかも知れません。

なおてんかん発作を病因的に見た場合は、原因不明の特発性てんかんと何らかの基礎疾患が原因で起こる症候性てんかんに分けられますが、特発性てんかんでは脳波に異常波形が見られるほかは、検査をしても何ひとつ異常は見つかりません。また精神運動性発作は脳の側頭葉や大脳辺縁系の障害によって生じるため、症候性てんかんではその部位の炎症を伴う疾患や腫瘍などが原因となっていることがありますが、よほど病気が進行していない限り一般的な健康診断でそれが見つかることはまずないでしょう。

そのため、今回てんかん発作を疑ったとしてもその診断を確定するためには特殊で精密な検査が必要になりますが、それとは別にとりあえずスクリーニング的に実施できる簡便な方法としてお勧めするのが次のような診断的治療法です。それはてんかんの症状をコントロールするための治療薬である抗てんかん薬を服用させ、問題行動が改善されるかどうかを見てみるというもので、そこで改善効果が見られればてんかん発作の関与が濃厚であるということになります。まずはかかりつけの動物病院に相談されてみてはいかがでしょうか。